トロントの女性グループ
季刊誌『華やぎ』に寄稿
2012年春号
ご存知の方も多いと思いますが、エクアドルと言うは国の
東西に赤道が走り、南北にはアンデス山脈が国の中央を連々
と連なっています。
首都のQuito(キト)は、その山の上の海抜2800mに位置
しており、今私が滞在している街Cuenca(クエンカ)は、
首都から南に少し下がった所にありますが、ここも海抜
2500メートルなのです。
トロントを出発する前には、空気が薄いことで息苦しさを
感じるかと思ったのですが、その心配は全くありません。
ただ1978年に、世界遺産に認定されたキトの旧市街のはずれ
にある200mほどの丘のエンジェルの立像が立つ場所は、
海抜が3000m以上になるためちょっと息切れがしました。
(ちなみに富士山は3776mです)

南米は以前にベネズエラに行ったことがあり、マルガリー
タ・アイランドに滞在して休暇を過ごし、途中セスナ機で
アマゾンの原生林の上を飛びエンジェル・フォルスへ出か
けたことはあるのですが、それ以外は今回が2回目の旅に
なります。
あちらこちらのツアーで得た知識によれば、エクアドル、
ペルー、ボリビアなどは、インカ帝国が繁栄を極めた地域
だったものの、スペインによって滅ぼされたため文化を失っ
たのです。
特にエクアドルなどは紀元前9000年にも遡る歴史を持って
いるのだそうです。スペイン征服時代の跡もまだ沢山残さ
れていて、文化や歴史を知れば知るほど興味は尽きません。
まあこんな知識は観光すれば誰にでも分かることですが、
さてここからは私が体験した稀有な物語を書きましょう。

今もし食事をしながら、或いはスナックなどを食べながら
このBLOGを読んでくださっている方は、まずそれを食べて
しまってから以下をお読みください。
そのユニークな体験とは以下のように始まりました。
トロントを出発する前に、私は首都(キト)にある
在エクアドル日本国大使館にインタビューを申し込ん
でいました。この国についてのブリーフィングをして
欲しかったからです。快いメールを頂いたのですが、
それはまだキトの地理が私にはほとんど定かでなかった
到着2日目だったのです。
この日はアポに間に合うようにホテルを出て、ほんの3、4
ブロックほど歩いた所で、私はかぶっていた帽子に何かが
落ちたのを感じました。
「あれっ?!」とは思ったのですが、そのまま2、3歩歩み
を進めていたら横を歩いていた夫が「Keiko, You got it!」
と叫ぶのです。
その時にはすでに私もピンと来て「まさか!」と思ったも
のの「I
got it, didn’t I?」とオオム返しに叫びました。
何をされたと思いますか?
私の帽子から肩、背中、腰に掛けて「人糞」を振りかけら
れたのです!!!
その時は、鳥の糞みたいに建物の2階あたりからその
異臭物が落とされた思ったのですが、後から良く考えて
みると、後ろから歩いて来たエクアドル人の初老の男性が、
おそらく何かの容器に入れた「言葉を持って説明不可能な
ほど臭〜い」商売道具を私に向けてサッと降りかけた
ようです。
でも私は慌てませんでした。
何故ならトロント出発前に、インターネットを屈して
エクアドルに関する情報を集めていたとき、まったく同じ
経験をしたアメリカ人夫婦の体験談が載っていたのを読ん
だからです。
その時は「まあ、何と!!!」と驚きましたが、まさか
自分がそのターゲットになるなんて、当然ながら夢にも
思いませんでした。
もちろんそのアメリカ人夫婦は、大変に慌てて近くの
公衆トイレに駆け込み汚物を拭き取ったのですが、その間に
そばに置いた手荷物をそっくり盗まれた、という不幸の
ダブルパンチを受けたのです。
よく聞くのは、レストランで旅行者がケチャップを掛け
られるという事件ですが、ここでは「人糞」でした。
もちろん何人かがグルになっての犯行だったことは疑う
余地がありません。
もし私たちはこの体験談を読んでいなかったら、おそらく
大慌てこのアメリカ人夫婦と同じ事をしたかもしれません。
でも不幸中の幸いは「知識」があったことで、夫の
「Calm
down, Keiko, you will be alright」の言葉に落ち着きを
保ちホテルに急ぎ戻りました。
でも後ろから初老の男性が、布を手にしきりに「何か付いて
いるよ。拭いてやるよ」と言うしぐさをして追っかけてくる
のです。もしこれを受け入れていたら、その間に私のポケッ
トやバッグから貴重品などを抜き取る積りだったので
しょう。
ホテルのフロントで働くエクアドル人もびっくり!!!
「聞いた事も見た事もない・・・」と言葉が継げない様子
でした。
そんなこんなで大使館のアポには間に合いませんでしたが、
翌日に出かけたところ「落ち着いて処理をしたことが大事に
ならずに済んでよかったですね」と言われました。
エクアドルで良くあるのは、現金を銀行から下ろした人を
目印にして後をつけ、それを奪うと言った事件で、まったく
珍しくないとかです。
しばらくして日本大使館のサイトを見たら、この手の事件に
対しての警告は載っていましたが、「人糞事件」への注意は
なく残念に思いました。
でもこれで私たちのエクアドルの印象が悪くなったでしょう
か? 答えは「いいえ」です。
もちろん気持ちの塞ぐ形容しがたい経験でしたが、むしろ
私は、そこまでして観光客をターゲットに金品を奪わなけ
ればならない人々の生活の貧しさに、もっと気持ちが塞ぎ
ました。
何しろ一ヶ月の最低賃金は月292ドルの国です。
(ある友人には「ケチャップを買うお金も惜しかったのか
もね」なんて冗談を言われました。(笑)
国民の95〜98%はカトリックで、どの街も「犬も歩けば
教会に当たる」と言っても大袈裟ではないほどカトリック
教会にぶつかります。その全ての教会で、日曜日には朝だけ
で3回のミサがあるのだそうです。

私も日曜日ごとに違った教会に出かけて見ましたが、
それは、それは溢れんばかりの信者の数でした。そして
献金に一セント(ここはアメリカドルが通貨)も出さない
人が一杯いる反面、聖体拝領には長蛇の列・・・・・。
あの初老の男性も、日曜ごとに必ずや教会に出かけ膝を
つき祈りをすることでしょう。
また週一回はコンフェッション(告解)をするのかも
しれません。この週はきっと「観光客に人糞を掛けま
した、お許しを!でもお金は盗みませんでした」とでも
言ったのではないでしょうか。

でも貧しい国で起こる「人糞」をかけて人のものを盗む
事件と、一応まだこの国ほどには貧しくない日本で、
「オレオレ詐欺」で人のものを盗むのとどこが違うのか?
事件以来私の頭のなかではこんな思いが去来しています。