ゆきのまち通信
(青森から発信されるの素敵なタウン誌)
人物紹介
食の外交官 槇峰美那さん
トロント総領事館料理人
トロント総領事館のキッチンにて−槇峰美那さん
日本政府を代表する外国の官邸で来賓の多い日々の食を司る人と聞けば、まず大方が堅物の男性像を思い浮かべるだろう。
ところが、そんなステレオタイプのイメージを見事に“裏切る”のが、トロント総領事公邸の料理人美那さんだ。チャームポイントは、ふっくらとした明るい笑顔である。
だが奥に秘めた頑張り精神は、彼女がモットーとする「一生懸命」によって見事に花開いた。
女性の社会進出には障害の少ないカナダでも、美那さんの存在は異色で英字新聞にも採り上げられ話題を呼んだ。
日本食が人気なのはカナダも同じだが、何といってもその繊細な味と美しい盛り付けが人々を魅了するようだ。
大阪の実家は両親が新鮮な野菜の卸し・小売業をしており、子供の頃から「マンガよりテレビの料理番組が好きだった」と聞けば、なるべくしてなった根っからの料理人と言えるかもしれない。
美那さんは、大阪にある辻料理専門学校、辻調理師技術専門学校日本料理課を卒業後、市内の有名なお料理屋さんで無給の修行も積んだ。予想通り「女性」が理由で何度も断られたが、熱意に負けた主人に雇われたという逸話もある。
その後誘われて古巣の学校で助手や講師として6年ほど務めた。
生徒もほとんどが男性。「なんだ女の先生か」と言う生徒の言葉に「しっかりしなければ」と背伸びしていたと当時を振り返るが、何事も誠心誠意やれば必ず通じることも同時に体験した。
こうして上下関係がことのほか厳しい、男性が主流をなす日本料理の世界で、徹底的に鍛え上げられたことが今の彼女の基礎になっている。
そんなある日、「食の外交官」というキャッチフレーズで募集していた「公邸料理人」という仕事に興味を持ち、稚内北方のロシア領ユジノサハリンスクに赴任した。
ここでも女性初として男性の職域に切り込んだのだが「途中で根を挙げるだろう」との周囲の予想を越え、領事離任まで4年8ヶ月勤務した。だが食材調達の困難な寒冷地での苦労は信じ難いほどだった。
現在のトロント総領事公邸は2度目の外国赴任地。まだ一年半足らずだが、この間のハイライトは、昨年(2009)7月にトロントを訪問された天皇皇后両陛下を始めとする14人の賓客に晩餐を供する大役をこなしたことだ。
長旅のお疲れを癒したいとメニュー作りに心を砕いた。両陛下からの「おいしく頂きました」のお言葉には涙と共に体の震えが止まらなかった。
人をおもてなしする喜びの積み重ねが、奥の深い食の世界への探求心を益々駆り立てていくのだろう。
デザートは美那さんの得意なクッキングの一つ