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寄稿文 カナダ - 日本

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30歳前後だった頃の私たち
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    トロントの女性グループ発行のエッセー集「華やぎ」

    2013年初頭冬号の華やぎエッセークラブの課題は、「30歳前後だった頃の私たち」というもので、それぞれがウン十年前の自分の写真を持ち寄って表紙を創り、同時にその頃の思い出を綴った。

     

    華やぎ(冬号)

    30歳を迎えた誕生日のその日、私は朝のうちに美容院(当時はそう呼ばれていた)に行き、肩が隠れるほど長かった髪をアップに結い上げてもらった。

    すでにカナダに来ることが決まっていた私に持たせようと、母が思いを込めて、一針一針縫ってくれた着物が出来上がっていた。その母が更に思いをこめて、美容院から戻った私に丁寧に着せてくれた。

    そして私は待っていたタクシーに乗り、約束の時間に間に合うように写真館(これも当時の呼び名)に向かったのだ。

    横浜の繁華街に唯一あったその写真館は、入り口の右側にきれいに磨かれたショーウィンドーがあり、七五三の金太郎アメの袋を提げた子供や、角隠しと白無垢の着物を着て、わずかに頬をくずす花嫁姿の写真などが飾られていた。
    あの時代どこにもあった何の変哲も、てらいもない写真を写してくれる館の入り口だった。

    タクシーを降り、脚に着物を絡ませながら不器用に歩いて戸を開けた途端、ひょいとつい立から顔を覗かせた中年の女性が「きれいなお姉さんがきたよ〜!」とスタジオと自宅を仕切るカーテンに向かって声を掛けた。

    「ああ・・・」と奥から男の声。待たされることしばしの後に、ぬっと唐突に現れたのは、まるで絵に描いたような”写真屋”で、黒いベレー帽に黒いシャツの男性だった。

    立って撮り、座って撮り、横から撮り、斜めから撮り・・・たがめつ、すがめつ・・・カシャ、カシャを繰り返して出来上がった写真の一枚が表紙に掲げた分である。

    だが時間を掛けてくれた割りに、私はどれも”自分らしくない”ことが不満で「30歳の記念」あるいは「カナダ移住前の記念」と言う以外にまったく好きになれなかった。

    後日写真を取りに行ったとき、例の女性が大変に褒めてくれたため「余り好きじゃないわ・・・」とも言えず、黙って帰ってきたが、その後写真館のショーウィンドに、この写真を見たと友人が知らせてくれた時は、何やらひどく歯がゆかった。

    若いころ私は、「人と同じ」であることを極力好まなかった。その最たるものが、成人式に揃うどれも同じような模様の、あの艶やかな着物に白い襟巻きという「制服」で、それはもう虫唾が走るほど嫌だった。

    私の二十歳(はたち)の出で立ちはと言えば、黒い布で仕立てた「Aライン」のドレスに短めの「マント」。

    当時としては実に突拍子もないスタイルを自分でデザインし、婦人服屋にあつらえ、市が催す「二十歳の集い」に出席した。
    それを着て母の前に立った時の、彼女の驚きの表情は今でも忘れられないが、そんなへそ曲がりの私に、着物はやはり似合わないと今でも思っている。

    そして、この記念写真を撮った三ヵ月後の晩夏、自分の技量でカナダへの移住資格を得た私は、身の回りの品々を船便で送った後一人日本を旅立った。

    当時は一ドルが360円で、アメリカドルよりもカナダドルの方が強かった。
    現在のように93〜94円(少し前までは80円台)の時代が来るなどとは想像だにすることは出来なかった。

    〜*〜*〜*〜

    その後の私の人生は、2000年に当時存命だった実母の、カナダでの移住生活を書いて上梓した拙著、「カナダ生き生き老い暮らし」(集英社文庫本)に詳しく触れている。

    30歳頃の私たち

    出版当時は、強い円のお陰で退職してから外国暮らしをするシニアが多かったのだが、母のカナダ移住(1977年)はその先駆けで、同じような考えを持った人々を触発したようであった。

    すでに上梓してから10余年の歳月が流れているが、今でもお読みくださる読者がいるようで、ありがたいことと思っている。






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